2003年3月03日 “あたらしいムーブメント”

 

ぼくがまだアナログでマンガを制作していた頃、

といっても、ほんの3年ほど前のことだけれど、

人物のフチに61番のトーン、つまり薄いアミのトーンを

覆うように貼り、人物を切り抜き、主線から外側に向かって

カッターの背でトーンを薄く削るボケアシの効果を

印象的なシーンによく使っていた。

これはなかなか根気のいる作業で、丁寧に削らないと

ボケアシがキレイに延びてくれない。

刷り上がった本を友人に差し上げると、そのコマを見るなり

「おお〜」と感嘆したので、がんばったかいがあったなあ、と

うれしくなったんだけど、次の瞬間、その友人は

「あ、CGじゃないのか。な〜んだ」と、本を閉じた。

 

その友人は極端に偏った価値観の持ち主なんだけど、

そういった風潮が流行した時期があったのも確かだ。

7、8年前かなあ。

「Photoshopで色、塗ってます」ってだけで

仕事もらってるイラストレーターがけっこういたよねえ。

 

同時期に“コピックマーカー”ってのもあった。

萩原一至やCLAMPのもこなあぱぱ(すごい名前)や岡崎武士や見田竜介なんかが

こぞってコピックを導入して、けっこう話題になったっけ。

How toの特集もよく組まれていたな。

もちろんぼくも使ってた(笑)。

 

あたらしいムーブメントが登場すると

諸手をあげて賛成するタイプと

意固地になって批判するタイプに分かれることがある。と思う。

ぼくは前者かも。新しいモノには取りあえず触れてみたいカンジ。

そのへんの好奇心はけっこう旺盛なのだ。

後者は…そうだなあ、

「CGは無機質だからキライ!」って

臆せず言っちゃうカンジ、かなあ。

 

文明の歴史ってのは、そういった紆余曲折の連続なんだろう。

芸術の世界に印象派が登場したときも、そーとー叩かれたらしいからねえ。

なにしろ“印象派”って名前自体、批評家がモネ達を指して

「印象主義者たち」というあだ名で呼んだのが始まりだそうだから。

 

いま、もしあてはまる例をあげるなら、

「ペン型タブレットとPainterってすごい!」かな。

なにが「すごい!」かっていうと、やっぱりなんといっても

CGでアナログ画材を再現する、っていう、

なんだか一見すると、ものすごーく迂遠なとこでしょう。

「だったらアクリルで描けよ!」って人もいそう(笑)だけど、

実際、部屋をアトリエに改装して制作に取り組むって過程を

初期衝動と創作意欲で実行できるひと、なかなかいないよねえ?

ワープロがあったから作家になったって話、本当によく耳にするし、

カラオケが日本人の歌唱力をグッと引き上げたように、

「Painter」というソフトは多くの日本人を画家にした、と思うなあ。

 

ブームという現象そのものに賛否両論あるのが当然ってことかな。

カメラの発達が、多くの写実派の画家から職を奪い、

チューブ絵の具の発達が画家をアトリエから解放して

印象派を生んだようにね。

 

おれの創ったモノは血の一滴であって、

コンピューター・グラフィックを描いた覚えは無いんだぜ。