2003年3月10日 “雪を探しに・前編”

 

「雪」という童謡は関東以南で作られた歌だ、

と、以前新聞の記事で読んだことがある。

“ゆ〜きやこんこ あ〜られやこんこ”というフレーズで始まる、

あの有名な「雪」だ。

その記事を読むまでは、この歌を漠然と

秋田や青森といった北国を思い浮かべながら唄っていた。

でも、言われてみればその通りだ。

“雪国”って言葉が示すように東北地方の冬は、まさに雪との戦いだろう。

“ふってはふってはずんずんつもる”と続くが、

東北地方、特に雪の多い日本海側など、ひと冬通して

雪が溶けることはないだろう。

“い〜ぬはよろこび にわかけまわり”と続くんだけど、

毎日の雪下ろしと、玄関の前の除雪が精一杯で、

犬が駆け回れるだけの庭が顔を出すのもまた、

春の訪れなくしてはあり得ないんじゃないかな。

“ね〜こはこたつでまるくなる”

…これはどこでもそうだろうねぇ(笑)。

ともかく、雪が降ってワクワクできる余裕があるのは、

もしかしたら、せいぜい日本全国の半分くらいの地方のハナシ、

かもしれない。

 

相変わらず前フリ長くてごめん。

何が言いたいかというと、要するにぼくが暮らしてる街は

関東平野のド真ん中、雪なんて年に数回しか振らないトコなのだ。

だから、雪が降り出したらもう大はしゃぎ。

犬じゃなくても駆け回りますよってなモンですよ。

ネコは寝てるけどね。

 

今年は関東地方も雪の日が多かった。

東京でも8、9回は降ったらしい。

まだまだ寒いから、あと一回くらい降るかもしれない。

でも。

なんだか印象に残ってない。

街が真っ白に染まったイメージがない。

つもる雪を踏みしめる感触を、雪球を固める手の冷たさを、

この冬は味わっていないことに気がついてしまったのだ。

これはちょっとサミシイ。

ただでさえ季節感の薄弱が(このサイトで)嘆かれているというのに。

 

そんなワケで、行って来ましたよ雪を探しに。

東北自動車道を北上、目指すは栃木県日光市。

世界遺産にも登録されて話題になった東照宮を有する、

関東有数のドライブコース、です。

 

以下、日記風に。いや、日記なんだけどさ。

 

このところ、週末の度に厚い雲が空を覆い小雨をぱらつかせていたが、

その日は違っていた。

日曜だというのに、めずらしく早起きしてみると

久しぶりに青空が広がっていたのだ。

こんな気持ちの良い朝をムダにする手はない。

ぼくは飛び起きると顔を洗い着替えを済ませ、

それからお気に入りのCDとロードマップをクルマに放り込むと、

優秀なナビゲーター・江春ゆうきさんを隣に乗せて、

さっそくドライブへと繰り出した。

 

日曜だというのにクルマもまばらな東北自動車道を快適に飛ばし、

途中、佐野サービスエリアで軽く食事を済ませ、

暖かい缶コーヒーを買って再び北上。

日光・宇都宮道路に乗り換える。この道もまた、実に快適。

昼前には今市(いまいち)市に入った。

この辺りから、少しずつ雲が空を覆い始める。

高速道路の電光掲示板を見ると“4℃”の表示。

路肩に目を凝らすと、日の当たらない箇所に

僅かだが、廃棄ガスに汚れた残雪が確認出来る。

とはいえ、視界を囲む山々に雪化粧は見られないし。

まだまだ、こんなものでは。

僕らは“雪見たい欲”を満たすべく、さらにクルマを走らせた。

 

日光・宇都宮道路を終点まで走り、いよいよ日光に入る頃、

ついにそれは姿を現した。

雪山だ。ついに来た。

ここ何年もゲレンデに行ってないから、久々の対面だ。

海と山しかない日本に生まれて、そのどちらを見ても興奮できるんだから、

まったくおめでたい。

さらに、空を覆っていた雲が厚くなり、僅かに雪が舞い始めた。

どこまでも盛り上げてくれるぜ、まったく。

 

奥日光・中禅寺湖の入り口、急カーブが続く名所ワインディング、

“いろは坂”に突入すると、興奮はいよいよ最高潮に達した。

い・ろ・はの文字が割り当てられた急カーブをひとつひとつ曲がり、

標高が増すごとにどんどん下がる気温は路面をすっかり新雪で覆い、

気がつけばアスファルトは全く見ることができないほど。

スタッドレスを履いているので滑りはしないものの、

ハンドルを握る手にも、無意識にチカラが入る。

 

ついにワインディングを上りきった僕らは、その景観に絶句した。

山頂に広がっていたのは、何者の侵入をも許さない、

豪雪に閉ざされた極寒の世界だった…。