2003年3月29日 “橋の真ん中でガス欠した妹”

 

朝の7時半に妹から電話があった。

毎朝クルマで40分の距離を通勤している妹が、

数キロ先のスタンドまでガソリンがもたず、

橋の真ん中であえなくガス欠を引き起こしてしまったという。

これがもう最悪。

比較的大きな街にかかる橋の真ん中、朝の通勤ラッシュ、橋の前後に信号、

その先に国道…、言うまでもなく大ひんしゅくだ。

現場は大変な渋滞だという。そりゃあそうだろう。

妹の後ろには、それこそ何百台というクルマの列。

橋の先の信号が赤になり、向かいのクルマが途切れたスキをついて

ようやく数台が橋を渡れる、というやりとりらしい。

たまに強引なヤツがむりやり出ようとして、

クラクションの鳴らし合いをしたりして、すごいフラストレーション。

でも、妹に直接文句を言うヤツは居ないんだそうな。

なるほど、そういうものかもしれない。

ただ、通り過ぎざま向けられる視線が痛くて、

妹はケータイを耳にあてて話してるふりをしながら、

“善処してますっ”というアピールをして、やり過ごしているらしい。

そのケータイもバッテリーが切れかけだとか。

 

僕はまず妹に、シフトをドライブに入れたままキーをひねってみろ、

とアドバイスしてみた。

マニュアル車なら、ギアが入ったままセルを回すことで、

ほんの少しだけど、電気のチカラでクルマを動かせるからだ。

しかし妹のクルマはオートマ。キーがまわらないという。そりゃそうか。

一旦電話を切って、僕はJAFに電話をかけてみた。

JAFというのは、クルマが故障なんかしたときに駆けつけてくれる、

全国規模のかっこいい組織だ。

電話がつながり事情を説明すると、オペレーターはにこやかに、

一時間ほどでまいります、と答えた。

とりあえずお願いします、といって妹のケータイを教えて切る。

一時間、スか。こりゃあ別の手を考えないと。

再び妹に電話。

一時間かかることを告げると、絶望したような声をあげている。

急病のふりをしようかと思ったけど、やり過ぎると

救急車を呼ばれかねないのでやめた、と言っている。

ぼくはちょっと楽しい気分になってきたが、なんとかしてやらないと。

お前がいつも利用しているスタンドが数キロ先にあるのなら、

レシートか会員カードを探して見ろ、とアドバイスしてみる。

その手があった! と妹の声がパアっと明るくなった。

10分ほどで駆けつけたスタンドの出張スタッフが、

妹には光り輝く天使に見えたそうだ。

レシートに電話番号が記載されて無かったら、

それこそ一時間は放置されていたところだったろう。

 

僕だったらどうしただろうか、と考えてみた。

車体を揺らすと、タンクの内壁に水滴となって残っている僅かな

ガソリンが流れ落ち、ちょっとだけエンジンがかかる、と

聞いたことがある。

一秒でも加速してくれれば、すぐニュートラルにして、

後は惰性で橋を渡りきれるかもしれない。

あるいは、後続車のドライバーのチカラを借りてクルマを押す、

という手もある。

 

他にも何通りか考えてみて出た結論は、

“泣きながら川に飛び込む”だった。